今回は、建築基準法上の採光について㈱土地活用のパートナー設計事務所の春日部幹設計の春日部幹氏に書いていただきました。
マンションなどの住宅を設計する場合、居室については、建築基準法上の採光が必要となり、単に隣地境界際(例えば隣地境界から50cmの位置にある窓)に明り取りの窓があっても建築基準法上の採光窓とは認められません。
どの窓が採光基準を満たす窓として認められるのか、それは、どのような計算式の結果なのか、解説を読んで理解していきましょう。
以下、春日部幹氏の文章です。
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目次
土地活用の豆知識㉛:居室採光(建築基準法)
【居室採光とは?】
建築基準法では、快適な環境の確保のために、部屋には一定の自然採光が得られるような窓を設けることと規定されています。この窓によって得られる採光を「居室採光」と言います。ただし、すべての部屋に必要なわけではなく、次のような用途の建物にある「居室」とされる部屋に限ります。
居室採光が必要な建物用途:住宅、寄宿舎、下宿、児童福祉施設、病院、学校、保育所などです。
居室とは:「居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室をいう。(建築基準法第2条)」
分かりやすく言えば、住宅のリビングや寝室、病院の病室、学校の教室などは居室ですので居室採光が必要ですが、住宅の廊下やトイレなどは居室ではないので採光不要ということです。
事務所や店舗は建物用途上から採光不要ということになります。例外としては、用途上やむを得ない居室、例えば、住宅のリスニングルームのような防音室は居室採光が免除されます。また、あくまで太陽光による自然採光の話ですので、照明器具による部屋の明るさとは関係ありません。
POINT1 住宅の居室(リビングや寝室)には建築基準法上の居室採光を満たす必要が有る。
【居室採光の基本的な考え方】
居室採光の基本的な考え方は、建物内のすべての居室において、以下のように「有効採光面積」が「必要採光面積」より大きいことを部屋単位で採光計算によってチェックすることです。
採光計算の基本的な考え方は下記のようになり、順を追って説明していきます。
- 「有効採光面積」>「必要採光面積」
- 「有効採光面積」=「窓の大きさ」×「採光補正係数」
- 「必要採光面積」=「居室床面積」× 1/7(住宅の場合)
図1のような8帖の部屋の場合、1カ所の腰窓があれば居室採光を満たしやすくなります。もちろん採光は多いぶんには問題ありませんので窓はこれより大きくてもよいですし、窓が2ヶ所あれば合算できます。また、部屋のなかでの窓の位置、窓の開き勝手、窓ガラスの種類は問われませんので、高窓(ハイサイドライト)や、はめ殺しの窓(FIX窓)でもよいですし、型ガラスなどの半透明のガラスでも構いません。
ただし、窓と隣地境界線の位置関係、また窓が建物の何階にあるかによって、居室採光に「使える窓」と「使えない窓」があります。その判定に用いるのが採光補正係数という考え方ですが、詳しい手順は後で解説することにして、結論的には図2のように「道路に面する窓が有利」、逆に「隣地境界線に近い窓は使えない」ことになります。ちなみに、位置関係と階数によって決まりますので、方位は関係ありません。計算方法は追って説明していきますが、図に×が書いてある窓があるように、隣地境界に近い窓は隣地境界に近い窓は建築基準法上の居室採光を満たすものとしてはカウントされません。
POINT2 隣地境界に近い窓は、居室採光に使えない。
また、断面的に見た場合、図3のように、マンションのような下から上まで同じように基準階が積み重なる建物の場合は、下の階にある窓ほど居室採光は不利になります。そのため、住戸プランが同じであれば、採光計算はいちばん下の階のみをチェックすればよいことになります。
POINT3 居室採光は、下の階ほど不利になる。
【採光計算の手順】
何故、居室採光は、隣地境界から近い窓はカウントされなかったり、下の階ほど不利になったりするのか、採光計算の手順を整理しておきましょう。基本は、以下の手順を住戸タイプごとに部屋単位でチェックしていくことです。順に説明していきます。
- 居室床面積を求めます(壁芯寸法による)
- 必要採光面積を求めます→「必要採光面積=居室床面積×1/7(住宅の場合。病院や学校は異なります)」
- 採光補正係数を求めます(求め方は次に解説します)
- 有効採光面積を求めます→「有効採光面積=窓幅×窓高さ×採光補正係数A」
- 有効採光面積 > 必要採光面積となっているかチェックします。
【採光補正係数とは?】
採光補正係数は、その窓が「使える」か「使えない」かを窓ごとに判定するために使います。係数がマイナスになれば「使えない」、プラスになれば「使える」かつプラスの値が大きければ大きいほど採光計算上は有利になります。
細かい計算になりますので、設計者以外は読み飛ばしてしまっても実際は問題ないと思います。一般の方は、先ほど述べた「1.道路に面する窓は有利」「2.隣地に近い窓は使えない」「3.基準階の場合は下の階の窓ほど不利」という点を押さえておけば大丈夫ですが理由をしりたいと知的好奇心が湧いてしまうからは是非読んでください。
①まず、窓から隣地境界線までの水平距離dを求めます。
但し、水平距離dは、
バルコニーがある場合はバルコニー腰壁の先端から境界線まで。
境界線が斜めの場合は窓中心位置でとる。
窓が道路に面する場合は、反対側の道路境界線まで。
とします。
②窓から直上の建築物の部分までの垂直距離hを求めます。
窓高さの中心からとる。上階でセットバックする場合は、いくつかの点による計算結果を比較して、最も厳しい補正係数を採用する。
③採光補正係数Aを計算し下記の計算式で求めます(敷地の用途地域により計算式が異なります)。
住居系用途地域: A=6d/h-1.4
工業系用途地域: A=8d/h-1
商業系用途地域、無指定地域: A=10d/h-1
計算式d/hから解るように採光補正係数Aは、水平距離dが大きくなれば、なるほど、つまり隣地境界から窓の距離が離れれば離れるほど、大きくなります。
また、採光補正係数Aは、垂直距離hが小さくなれば、なるほど、つまり窓から上に積んである建物の高さが小さくなるほど、大きくなります。10階建のマンションなどは、垂直距離hの大きい1階が採光補正係数が最も小さく採光計算上不利になり、10階が最も窓から上にある建物高さである垂直距離hが小さくなり採光補正係数は大きく採光計算上有利になります。
更に採光補正係数は、商業系地域が一番大きく、工業系地域、住居系地域の順に不利になります。
POINT4 採光補正係数Aは、水平距離dが大きければ大きく(有利に)なる。
POINT5 採光補正係数Aは、垂直距離hが小さくなれば大きく(有利に)なる。
POINT6 採光補正係数Aは、商業系地域が大きく有利で、工業系地域、住居系の順に小さく(不利に)なる。
④更に、次の条件を考慮して、採光補正係数Aを決定します。
イ:採光補正係数Aの上限は3:計算結果が3より大きくなった場合は、自動的にA=3となります。
ロ:窓からの水平距離dが以下のDの数値より大きい場合:採光補正係数の計算結果がマイナスになっても自動的にA=1となります(計算結果がプラスの場合はそのままプラスの値を使う)。境界線まである程度の距離(D以上)が確保されていれば一定程度の採光は見込めるためです。
住居系用途地域:D=7m
工業系用途地域:D=5m
商業系用途地域、無指定地域:D=3m
ハ:窓が道に面している場合:計算結果がマイナスになっても自動的にA=1となります(計算結果がプラスの場合はそのままプラスの値を使う)。以上の手順により、窓ごとに採光補正係数Aを決定します。
図4の例では、左側の1F掃出し窓の採光補正係数はA=3(上限値)、右側の1F腰窓の採光補正係数はA=2.19となります(いずれも住宅系用途地域の場合)。
【採光計算の計算事例】
それでは、先ほどの図2の住戸Bについて、平面プランに基づいて、採光計算を行ってみましょう(用途地域は住宅系とします)。
まずは窓の判定から。この住戸に窓は2カ所ありますが、それぞれ採光補正係数を計算すると、道路側はプラスなので使えますが、隣地側はマイナスなので使えないことが分かります。
・道路側の窓→採光補正係数A=6×水平距離d=7.000m/垂直距離h=11.240m-1.4=+2.33→「+なので使える」
・隣地側の窓→採光補正係数A=6×水平距離d=0.540m/垂直距離h=11.240m-1.4=-1.11→「ーなので使えない」
【居室面積の算定】
次に居室床面積の算定です。図5のプランを見ると、居室となる可能性があるのは、リビングダイニングと2つの個室(寝室、納戸)です。リビングダイニングと引戸で仕切られている個室(図5では寝室)は、一体的な部屋と見なして床面積を合算して採光計算が可能です(開き戸で仕切られている場合は認められないことが多いです)。
キッチンはダイニングとの一体度や開放度に応じて、法規上の扱いが変わります。一般的には、ダイニングと一体的になっている場合(オープンキッチン)は居室扱い(キッチンの床面積も含めて採光計算が必要)となり、ダイニングと明らかに別室になっている場合(クローズドキッチン)は居室扱いにはならない(居室採光は不要)ことが多いです。ここではオープンキッチンと仮定して、キッチン部分も居室床面積に含めます。
これらに基づいて採光計算を行ってみると、リビングダイニングキッチン(19.13㎡)+引戸で仕切られた個室(寝室5.62㎡)について、以下のように居室採光を満たしていることがチェックします。
⑤有効採光面積 > 必要採光面積となっているかのチェックです。
「有効採光面積=窓幅2.00m×窓高さ2.00m×採光補正係数2.33=9.32m2」 >「必要採光面積=居室床面積(19.13m2+5.62m2)×1/7=3.54m2」
一方で、玄関を入って左側の個室は「使えない窓」しかありませんので、法規上の「居室」扱いにはできません。マンションの住戸プランなどで見かけるサービスルーム(納戸)という表記にして、居室ではないということにしています。納戸は、物置と同じ意味合いです。
【地下室の場合は?】
特例として、住宅の地下室(建築基準法上の地階)の場合は、居室採光は必要ありません。ただし住環境の確保のために、法規上は次のいずれかの措置が求められます。
- 窓に面して「からぼり(ドライエリア)」を設ける
- 換気設備を設ける
- 除湿設備を設ける
地下室住戸として多いのは1.の「からぼり」タイプです。図6のように、窓に面した「からぼり」から採光や換気を得るようにするもので、「からぼり」の幅、奥行、深さの寸法には規定があります。
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以上、ここまでが、春日部氏の解説でした。少し難解でしたが、ポイントを押さえていただけたら嬉しいです。
北側に、道路があるマンションで、北側窓・バルコニーを向けていることが多々ありますが、『何で、日当たり悪い北側に窓を向けているんだろう?』と謎に思われていた方も多いと思います。建築基準法上の居室採光(窓先空地もあるが)の点から、土地を有効活用するのに、敷地形状から北側窓に設計せざる得ないのです。
出来れば、南側や東西に窓を向けたいのですが、実際のところ、東京の賃貸マンションでは、賃料と窓の向きに大差はなく、1000円から2000円下げれば普通に埋まります。基本的に東京の賃貸マンションでは住人は、窓にはカーテンをしており、カーテンなしに開けっ放しにして住んでいる人は余程の露出癖のある人以外は、ほとんど、いませんからね。
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