今回は、地主様の土地活用をする場合でも、土地を購入する場合でも建築主様が、『天空率』について予め理解をしてイメージが出来るようになって頂いた方が良い知識について。
建設費コストダウンの㈱土地活用の、パートナー設計事務所である春日部幹設計事務所の春日部幹氏に詳細な解説も含めて『6つのポイント』を書いていただきました。
目次
土地活用の豆知識㉞:天空率と道路斜線
天空率は、2003年(平成15年)に施行された改正建築基準法において追加された緩和制度で、それ以前の建築基準法では道路斜線制限等で建築が出来なかった建物を天空率を活用することによって、新たな規定内での建築が可能となりました。
道を歩いていると、上の画像のように、2003年以前では、道路斜線で明らかに建築できなかった建物が道路からのセットバックなどを利用することによって、高層階まで建築可能になっている風景を見かけたことは有ると思います。2003年以後のマンションで、垂直に上階まで建てる事が可能になっているのが、天空率という考え方です。
事業用地の目利きをする際に、どれぐらいの容積率を消化できるかの、1種の検討にも必要な知識なので、不動産売買に関わる方も是非、『天空率』をイメージできるようにして頂ければ嬉しいです。
実際の天空率の検討は、設計事務所がCADソフトを使って行いますので、複雑な算出方法の理解までは不要ですが、建築主側様がポイントを抑える程度の豆知識を持ち『天空率』を共通言語を話せるようになると、より良いプロジェクトになっていきます。
以下が春日部幹設計の文章となります。
↓
天空率と道路斜線について
1.天空率とは?
2.天空率の仕組み
3.天空率の事例1
4.天空率と道路からのセットバック距離
5.天空率の事例2(3方道路)
6.天空率と道路斜線のポイントまとめ
POINT1 天空率とは、主に道路斜線制限の緩和に使われる考え方のことです。
POINT2 天空率は、計画建物の背景の天空が見える割合を計算して、適合建物と比較する方法です。
POINT3 斜線制限により従来は斜めにカットしなければならなかった計画でも、天空率を使うと、真っ直ぐに建てられる可能性があります。
POINT4 同じ敷地、同じ天空率なら、建物高さが低いほどセットバック距離は小さくなります。
POINT5 角地の場合は、一定の範囲内はいちばん広い道路の斜線制限に合わせるという緩和規定があります。
POINT6 建物全体の床面積を考えるには、階数を変えて天空率による検討を行うことが必要です。
1.天空率とは?
「天空率」とは、建築物の斜線制限の緩和に使われる考え方です。斜線制限には、道路斜線、隣地斜線、北側斜線の3種類がありますが、最も多く使われるのは道路斜線制限の場合です(高度地区には使えません)。従来の斜線制限では斜めにカットしなければならないような計画でも、天空率を使うことで真っ直ぐ建てられる可能性がありますので、特に中高層のマンションや道路の狭い敷地などの計画で有効です。
天空率の天空とは、要は空(そら)のことです。天空率の基本的な考え方は、計画建物の背景の天空がどれだけ見えるかを計算して、従来の斜線制限が許容する最大のボリュームで建てた建物(=適合建物)より天空が大きく見えれば、部分的に斜線制限の斜めラインをはみ出してもよいというものです。
従来は一律に斜めのラインで規制していたのに対して、建物全体を見て陽あたりや圧迫感について判断しようという考え方に変わったわけです。もちろん従来の考え方も併用されていますので、緩和する必要のない計画の場合は、天空率を使用することはありません。
POINT1 天空率とは、主に道路斜線制限の緩和に使われる考え方のことです。
2.天空率の仕組み
天空率の仕組みを道路斜線のケースでご説明します。道路斜線の場合は、前面道路の反対側の境界線上の点(=測定点)から敷地を見たときに、計画建物の背景の天空がどれだけ見えるかをCADソフトを使って計算します。具体的には「計画建物」と「適合建物」について、それぞれ「背景の天空が見える割合(=天空率)」を計算し、「計画建物の天空率」>「適合建物の天空率」になっていればクリアです。天空率の計算方法については、図2をご覧ください。
前面道路の反対側の境界線上の測定点を中心として、建物がすっぽり覆われるくらいの球体の大きなドームがあると思って下さい。そこで測定点に光源を置くと、ドームの内側の壁に建物の影が落ちます。次に、その影を床(ドームなので円形)に投影します。すると、ドームの床は「建物の影の部分」と「影以外の部分」の2つに分かれますが、この「影以外の部分=天空の部分」が床全体に対して占める割合が「天空率」です。図2では、ドームの床の水色部分が「天空の部分」ですので、この水色部分の面積とドームの床面積との割合を求めます。
天空率は、これから建設する『計画建物の天空率』と、従来の道路斜線で建設可能な『適合建物の天空率』をそれぞれ算出・比較して、計画建物が適合建物の天空率より大きくなれば、より大きく空が見えるので建設可としています。
実際には計画建物の周りには他の建物が建っていますが、法規上それらは無視し、計画建物しかないものとして天空がどれだけ見えるかを検討することになっています。実際の検討においては、CADソフトに建物の3次元ボリュームを入力すると(ドームの床を示す)円形の天空図が自動的に作成され、それに基づいて天空率の計算も行われます。
POINT2 天空率は、計画建物の背景の天空が見える割合を計算して、適合建物と比較する方法です。
3.天空率の事例1
それでは、図3のような、具体的な事例で天空率を計算してみましょう。
まず、 測定点を道路の反対側に一定間隔で5つ設定します(間隔は道路幅員に応じて変わります)。そのうち、真ん中の測定点no.3について計算すると、図4左上の天空図のように、これから建てる計画建物の天空率=86.66%となりました。次に、従来の道路斜線の適合建物について同じように計算します(図4右上の天空図)。適合建物は図1右側にあるように、従来の道路斜線の1:1.5の斜めラインいっぱいに建てられた建物です。適合建物の計算結果は85.60%ですので、「計画建物の天空率=86.66%」>「適合建物の天空率=85.60%」となりクリアできました。
念のため、測定点no.1も見ておきましょう。測定点no.3は建物の真正面でしたが、測定点no.1の場合はドームに投影される影は斜め方向から投影された影になることが分かります。同じように他の測定点3カ所についても検討し、すべての測定点で計画建物の天空率が適合建物の天空率を上回っていることを確認します。そのことは、道路の反対側から天空を見上げると、従来の道路斜線より天空が大きく見えているのだから、周辺環境への圧迫感は少ないので建設可能であることを意味しています。
POINT3 斜線制限により従来は斜めにカットしなければならなかった計画でも、天空率を使うと、真っ直ぐに建てられる可能性があります。
4.天空率と道路からのセットバック距離
道路斜線制限の場合、建物高さが低いほど、また、道路からのセットバック距離が大きいほどクリアしやすくなります。これは従来の斜めラインの方法でも、天空率でも同じです。ですので、一般的に同じ敷地で天空率が同じ値にするには、建物高さが低く設定した場合、道路からのセットバック距離は小さくて可能で、建物高さを高くしたいのであればセットバック距離が大きくする必要が有ります(建物形状の影響がありますので、必ずそうなるわけではありません)。
POINT4 同じ敷地、同じ天空率なら、建物高さが低いほどセットバック距離は小さくなります。
5.天空率の事例2(3方道路)
次に、もう少し複雑な事例を見てみましょう。図7のような3方道路の場合です。
2方道路、3方道路のように道路が交わる角地では、建物が面する向きによって道路斜線制限が変わってしまうと建物形状が複雑になってしまいますので、「一定の範囲内(最大道路幅の2倍の距離まで)は、いちばん広い道路の斜線制限に合わせる」という緩和規定があります。これは従来からあった緩和規定ですが、天空率を使うときにも適用されます。
POINT5 角地の場合は、一定の範囲内(最大道路幅の2倍の距離まで)は、いちばん広い道路の斜線制限に合わせるという緩和規定があります。
図7の事例では、いちばん広いのは東側道路(幅員5.52m)ですので、一定の範囲内(東側道路境界線から「東側道路幅員の2倍=5.52m×2=11.04m以内」かつ「35m以内」)は、3方向の道路ともすべて幅員5.52mとして道路斜線の検討をすればよいことになります。 その範囲以外の部分では「狭い道路の道路中心線から10m以内」のみ、本来の道路幅員(北側、南側とも4m)として斜線制限がかかります。検討はそれぞれの範囲ごとに行いますので、結果的に図8のように5通りの道路斜線の検討が必要です。
この敷地で容積率上限(331.20%=道路幅員5.52m×0.6)に近いボリュームの建物を建てようと考えると、建物を道路からセットバックしたうえで天空率を使って、中高層の建物にする必要がありそうです。では、この敷地で天空率を使ってどれだけの大きさの建物が建てられるか、階数を変えて比較検討してみましょう。
図9は、この敷地における5階建てから9階建てまでのプランと建設可能な住戸床面積合計を比較したものです。
いずれも天空率を使って、道路斜線をクリアできる、ほぼ最大のボリュームとなっています。先ほど見たように、建物高さが高くなるほど道路からの、セットバック距離が大きくなりますが、この敷地の場合、階数が1階増えるごとにセットバック距離を東側道路で40cm程度、北側・南側道路で35cm程度大きくする必要があります。建物の大きさで言えば、奥行が40cm、間口が35cm×2=70cmずつ小さくなるということです。各階の住戸面積を計算してみると、1層増えるごとに1フロア当たりの面積は約10%ずつ小さくなります。
しかし、建物全体で見ると、こちらの敷地では9階までは階数が多いほど住戸面積の合計は増えることが分かります。
土地活用では、敷地の容積率を最大限活用することが、スケールメリットからの面積当たりの建設費を下げることや、賃料を最大限に得ることなどから、土地のポテンシャルとして収益性を最大化させる命題となります。
図10のようにグラフ表示してみると、建物全体の住戸面積合計は、9階以上に階数を増やしても920m2程度で頭打ちになりそうです。このことから、容積率上限の住戸面積(敷地面積310.57m2×容積率331.20%=1028.60m2)を取ろうとすると階数を増やすだけでは難しく、廊下の両端部を住戸にしたりして住戸面積を増やす必要があると分かります。
各階の戸数を減らして、廊下を小さくするのも有効です。1階はエントランスホールや駐輪場などで住戸面積が減りますが、住戸ではなく店舗や事務所にすると廊下が減って容積対象面積を増やすことができます。それらを総合的に判断すると、この敷地に容積率上限のボリュームの共同住宅を建てるには、8~9階建て以上とする必要があると考えられます。
POINT6 建物全体の床面積を考えるには、階数を変えて天空率による検討を行うことが必要です。
6.天空率と道路斜線のポイントまとめ
最後に、天空率と道路斜線のポイントをまとめておきましょう。
POINT1 天空率とは、主に道路斜線制限の緩和に使われる考え方のことです。
POINT2 天空率は、計画建物の背景の天空が見える割合を計算して、適合建物と比較する方法です。
POINT3 斜線制限により従来は斜めにカットしなければならなかった計画でも、天空率を使うと、真っ直ぐに建てられる可能性があります。
POINT4 角地の場合は、一定の範囲内はいちばん広い道路の斜線制限に合わせるという緩和規定があります。
POINT5 同じ敷地、同じ天空率なら、建物高さが低いほどセットバック距離は小さくなります。
POINT6 建物全体の床面積を考えるには、階数を変えて天空率による検討を行うことが必要です。
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以上、ここまでが春日部設計の文章でした。
街中を歩いていて、『あっ!これは天空率を使ったマンションで、これは2003年以前の建物で天空率は使っていないんだ!』などを知って見上げるのとでは、世の中の景色も違ってくることでしょう。